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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)1173号 判決

上告人

新谷楠太郎

右訴訟代理人

宮原進

被上告人

辻村嘉蔵

右訴訟代理人

板持吉雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人宮原進の上告理由一について。

所論は、原判決の経験則違反、審理不尽、理由不備をいうが、上告人としては被上告人から原判示の保証契約解約の申入れなど受けていなかつたとの原審認定にそわない事実を主張しこれを前提として原判決の違法をいうに帰着するから、上告理由として採用できない。

同二について。

原判決が上告人の予備的主張を斥ける理由として、本件のごとき期間の定めのない継続的保証契約は保証人の主債務者に対する信頼関係が害されるに至つた等保証人として解約申入れをするにつき相当の理由がある場合においては、右解約により相手方が信義上看過しえない損害をこうむるとかの特段の事情のある場合を除き、一方的にこれを解約しうるものと解するのを相当とするとし、挙示の証拠により、被上告人は治の叔父でこれまでも同人のために多額の出金を余儀なくされたことがあるのであるが、上告人に対し前記保証をなすに際し、治は被上告人に対し、自分が上告人との取引再開後同人から仕入れる小麦粉の代金はその各翌月の五日までに被上告人方に持参することを約していたのにかかわらず、これを再三怠り、そのために被上告人自身の出金が相当の額に達したので、被上告人として前途に不安を感じ解約の申入れをするに至つた事情を認定判示し、このような事情のもとでは被上告人として本件解約の申入れをなすにつき相当の理由があつたというべきであり、他面上告人側にも前示のような特段の事情はないものとして、被上告人のなした本件保証契約の解約の申入れを有効と判断したことは、正当として是認できる。

次に所論は、大審院判例をあげて、「期間ならびに金額の定めのない将来発生することあるべき主債務についての保証契約」においては、「契約後相当の期間を経過した場合か、そうでなくても債務者の資産状態が著しく悪化した場合においてのみ」保証人の一方的意思によつて保証契約を解約することができると解すべき旨主張するが、本件にあつては保証契約後相当期間経過後の解約申入れであることは原判文上明らかであり、所論挙示の大審院判例(論旨が昭和九年(オ)第二四六号というのは同第二〇六号の誤記と認める。)の趣旨は「債務者の資産状態が急激に悪化したような保証契約締結の際に予測しえなかつた特別の事情があれば、相当の期間を経過しなくても解除できる」ところにあるのであるから、挙示の判例をもつて論旨のごとくに解することは、右判例の趣旨を独自の見解に牽強附会するものであつて採用できない。

その余の論旨は、原審において主張なく従認定判断を経ない事情をもつて原判決の判断に異論を述べるか、原審認定にそわない事実関係を掲げて原判決を非難するにすぎず、原審には審理不尽ないし理由不備の違法は存しないから、論旨は、すべて採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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